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ぬじろぐ

メモです。議論やコメントは受け付けておりません。当方オタクの女ですので、唐突に腐ったりします。注意。

模倣犯(上)(下) 宮部みゆき

感想 読んだもの記録

今更ながらに読んだので。
何でなのかわからないけど、謎の苦手意識を持っていて今まで宮部みゆきはほとんど読んでいなかったんですよ。
ブレイブ・ストーリーのアニメ映画版を見に行ったくらいかな。

まだ上が終わったところなのか…長いな。
通勤の行き帰りで読んでて、通常1日で1冊読み終わるのに、珍しく2日くらいかかった…と思ったらこれ文庫版だと上下合わせて5冊になるんですね。長いわけだわ。
題材は劇場型の連続殺人だけれど、内容としては群像劇かな…
一旦警察・被害者側視点の話が終わった後、第2部として犯人視点の話が始まり、チョイ役の被害者にもいちいち時間を巻き戻しての別視点描写があって、ちょっとクドい。だが、最後まで読ませてしまう辺りは流石か。
ストーリー上は必要ないのでは?と思うんだけれど、これは、犯人の気まぐれや偶然で、事件を演出する駒として殺されてしまった人たちにも、それまでの人生や家族があって、ただの駒ではなく生きている人間なのだっていうことを表しているんだと思う。
それで、ああ、これミステリーやサスペンスじゃなく人間を描くための話なんだなと確信を持ちました。

犯人は自分を特別だとして他人をバカにしているのだけれど。
そんな犯人にバカにされていた、何ということもない一般人であるはずの豆腐屋の爺ちゃん。メイン登場人物の一人なのですが、彼がすごい。
特別頭がいいわけでもないし、八面六臂の大活躍をするわけでもない。
被害者の遺族として登場して、まっとうに生きている人間ってだけなのだけれど。
自分は特別な人間で、有象無象のバカな一般人とは違うのだ…という中学二年生みたいな精神を引きずってる犯人と、彼らがバカにしている、特別頭がいいわけでも大それたことができるわけでもない、しかし決してただの駒ではなく現実を生きている一般人の対比なんだと思う。

以下、上巻読了時点ネタバレ。

犯人サイドの、栗橋とピースも対比になってるのかなーと。
栗橋のほうは、最初の殺人の時点でおとなしく自首していれば精神鑑定で黒と判断されて刑が軽く済み、治療が受けられて本人も楽になれたんじゃないかなと思った。
生い立ちからくる精神的な病気の他に器質的なものもあるんじゃないかな。
平然と他人に罪をなすりつける、うそつき、人を見下している、このあたりは環境によってそういう性格になってしまった感じがするけれど、姉の幻覚に悩まされる、事件を起こす以前から異様に忘れっぽい、瞬間沸騰的に怒る、の辺りは適切な投薬治療とカウンセリングを受けたら軽くなりそう。
用意周到な犯罪を単独で起こせそうな感じにも見えないし、ピースに出会わなければただのクズとして人生送って、事件を起こしたとしても傷害沙汰あたりで終わってそうな。
一般庶民でぱっとしない薬屋の息子であるというコンプレックスと、親が死んだ姉のことばかりで自分を見てくれない承認欲求、自己顕示欲、病気で不安定な精神、無職で人の良い知人から度々金を巻き上げるなど、普段から良くない素行。
そんな、世間が求める「わかりやすい原因」には事欠かない犯人像。
そういう役回りだと感じた。

対して、ピースのほうはこの時点では理解不能。
栗橋が人を殺してしまい、最初は隠ぺいの手助けをするという名目で行動を共にすることになるのだけれど、栗橋の殺人を隠ぺいしてやったところでピースには何の得もない。
エリートで塾の講師という定職についており、生徒からの評判もいい。家はお金持ちで、連続殺人に及びそうなわかりやすい原因はなにもない。
時々出てくる、「自分を否定されるとフリーズする」って部分が問題なんだろうけど…
理由もなく悪意をまき散らし人を絶望させる「絶対的な悪」を標榜していて、こいつただの中二病なのでは?という感じもする。
電話をかけるのは全面的に栗橋に任せるといったり、こいつ最初から栗橋をトカゲのしっぽ切りに使うつもりだったのでは?
頭のきれる演出家気取りのくせに、あちらこちらでミスをしているのが滑稽。

下巻ネタバレ

結局のところ、ピース…ピースでいいや。
彼は「全部俺がやってやったんだぞ!」ということを言いたくて仕方なかったんだろうなあと。
ラストであっさりカマかけに引っかかったのもそのせいだと思う。
彼にとっての一番つらい罰は、さっさとこの事件が終わってみんなが忘れてしまい、話題にも上らなくなることだね。

この小説は1995〜1999に連載していたものなのだけれど、それから20年たった今でも、何か事件が起こるとマスコミや世間がいかにもな犯人像、いかにもな理由、分かりやすく偏見に満ちた物語を求めるところは変わってない。
そして、そういうのは誰も幸せにはしないんだよね。この小説でもみんな不幸になった。

樋口めぐみについてはちょっと投げっぱなしだったような気もする。
正直、この子はピースに殺される役回りだと思ってたんですよ。
あれだけ自分勝手なことをして他人を傷つけて、自分は被害者して。
彼女は何も分かってないままこれからも生きていくんでしょうかね。
まあ、現実なんてそんなものかもしれないけどね。